この練習を続けて意味があるんだろうか・・・と感じることはありませんか。
正しい方向にトレーニングになっているのか、見える形で確認できれば・・・。
心拍や速度と同じように、パワー計の登場により、出力パワーもリアルタイムに記録できるようになりました。
このエントリーでは、これらのデータから、どんなトレーニング管理が行えるのか? を実例を交えてご紹介します。
用意するもの
これを行うには、1)心拍計、2)ランニングパワー計、3)記録用のGPSウォッチ、4)トレーニング管理ソフト と、情報量に圧倒されない気持ちが必要です。
このエントリでは、以下を使用しています。
GPSウォッチ・・・Garmin ForeAthlete 935
心拍ベルト・・・Garmin HRM-4-Run
ランニングパワー計・・・Stryd
トレーニング管理・・・TrainingPeaks、Stryd Power Center
参考書・・・『Run with Power』 Jim Vance師
トレーニング量の管理はPMC(Traning Peaks)、トレーニングの質(方向性)の管理は、Stryd Power Center で確認します。
Strydを使用する理由
ランニングパワーと練習量だけなら、Garmin RD-pod や HRM-4-Runでも測定できます。
しかし、靴に装着するStrydなら、さらに追加の情報が得られます:
Form Power(姿勢を支えるのに消費されるパワー)
Leg Spring Stiffness(脚バネの残量)
トレーニングの方向性(バランス)
姿勢を制御するパワーそのものは前進に貢献せず、必要以上に配分されるとスピードが落ちてしまいます。
下りで高い比率になる傾向があり、Form Powerを継続的にチェックすることで、下りのスキルを確認できると思われます(体幹に装着するタイプのRD-Pod や HRM-4-Run は、計測値の全体に Form Power(つまり左右のブレやねじり)がすでに含まれており、現在のところ区別できません)。
また、脚バネの残量を確認することで、「どこで脚が終わったか」を再確認することもできます。
PMCでは、トレーニングの量と計画(パワー強度 × 時間)を簡単に管理できますが、どんなスキルが強化されたかは考慮されません。
そのため、練習の方向性は、『Joe Friel の 三角形』で表示してくれる、Stryd Power Center を補助的に使うとカンタンに把握できます。
こんなメリットがあるので、Strydを使いました。
Training Peaksを使う理由
Stryd Power Center は 練習量をカウントしてくれますが、予定管理を持ちません。
一方、Training Peaks には、費やせる練習量(または時間)や目標レースを設定すると、テーパリングを含めたピリオダイゼーションを自動で作成してくれます。
そのため、今回は、Training Peaks を使用しました。
Garmin, Suunto, Strava, Zwift、Myfitnesspal 、Elite HRVなど、さまざまなソフトと連携でき、スマホのアプリもあるため、トレーニング日誌として統合的に使いやすいソフトです。
Plan(練習計画)
練習は、「量」と「質」に分ける方式にしました。
練習の質(方向性)
準備期の段階で、Stryd Power Center を確認しました。
不足してる能力
相対的に筋持久力、つまり長距離を走り続けられる能力が不足してることが示されています。
実際に、フルマラソン(古河はなももマラソン)で、後半に脚が終わったことでも実感と一致。
トレイルは、マラソンよりも長時間、活動しつづけるレースや練習が多いので、後半でタレないためには、ここの強化が必須です。
そこで、今夏の前半は、スピード強化よりも、長く走り続けられる能力(筋持久力)を優先して強化することにしました。
練習メニュー
筋持久力、筋パワーをあげるには、Stryd Power Center により、次のワークアウトが推奨されました:
閾値走(Power Zone 3で20~60分走)
レースペース走(実際に使うゾーンの強化)
ロング走(週あたり20~30%のボリュームを占める)
そこで、週2日のポイント練とし、うち週1回は、4~6時間ぐらいのロング走や、トレイルレースでの実用ペース走をすることにしました。
練習の量
量の管理は、PMCチャートで行います。
年間計画としては、8月末のUTMBを優先度Aのレースとし、5月20日にもAレースを設定。
トレーニング量を約700TSS/週、4週1サイクル(3週強化+レスト1週)と設定し、ATP(年間トレーニング計画)自動作成を行いました。
まず、5月のAレースで確認し、そこから9月に向けた練習計画を詰めることになります。
Do(トレーニングの実施)
トレイルでの実用ペースゾーンを中心としたトレイル走、ロードのロング走、悪天候のときはバイクでのFTP強化メニューを行い、予定された週間TSSを目指しました。
どんな練習したの?という内容は、Strava(2018年3月〜5月)を参照ください。
ベンチマークの設定
成長の比較は、同じコースで行います。装備や気象条件までは同一にできませんが・・・。
理想は同じレースを繰り返し行うことですが、そうも行かないので近隣トレイルで行います。
寧比曽岳チャレンジ(東海自然歩道:平勝寺~寧比曽岳)の往復22Km +1,100m を練習の一部に含め、今回のベンチマークとしました。
1回めは4月、2回めは5月と1ヶ月間隔でテストし、トレーニングが正しい(期待した)方向になってるか、確認材料としました。
ランニングFTP(rFTPw)の測定
トレイルのベンチマークとは別に、ランニングFTPも測定しました(測定方法はこちら👉ランニングのFTPを測定する方法・5つを解説 - メチロンのトレラン日記)。
Check(トレーニング結果の比較)
チェックの項目は、『Run with Power』 第9章:レースでのパワーメーター を参考にしました。
- NP(正規化パワー)
- IF(強度)
- VI(ペース変動)
- TSS(トレーニング量)
- EI(ランニング効率)
- CTL(直前の)
- TSB(当日の)
- パワーウェイトレシオ(w/kg)
- パワーゾーン分布
- どこでパワーやペースが落ち始めたかの時点
トレイルでのベンチマーク結果
ご存知のように、登りと下りではトレーニング量(強度×時間)の意味が異なります。
登りの律速因子はVO2maxですが、下りは筋持久力と反射神経(神経筋反射)が律速です。
これは、TSSが同じでも、異なるトレーニングを意味します。
そこで、寧比曽チャレンジを、約5km毎、4つのセグメントに分けました。
約5.3km地点の金蔵連峠で、登り2セグメント、下り2セグメントの合計4セグメントに分割。
登り区間の結果
ランニング効率にはさまざまな指標がありますが、ここではシンプルに、心拍数1回あたり何メートル進んだか、何ワット発生したかをランニング効率(EF)としました。
2回目のトライは、無理なペースを抑えたため、IF・主観強度が下がりました。
しかし、1心拍あたりのパワーおよび速度は落ちず(ごく僅かに上昇)、ペース変動指数(IV)も小さくなっています。
タイムは少し遅くなりましたが、ペース変動を抑えることで、主観強度(RPE)が楽になり、効率も落ちないことが分かりました。
VI(ペース変動)を抑えつつ、心拍数を上げれば、前回よりも楽にタイムを縮められる可能性があります。
下り区間の結果
同様に、下り区間です。
下りの前半(区間3)は、まったく同じに。
違いがあったのは、最後の5km(区間4)でした。
この最後の5km、4月の時はすでに疲弊し、最後は垂れたのですが、今回(5月)はウォームアップが終わったぐらいの感覚で終われました。
この感覚については、
主観強度の低下
タイムの短縮(キロ40秒)
パワー関連値の上昇
ランニング効率EFの上昇
といった数値で表現できそうです。
一方で、
IF上昇できた
平均心拍を上げられた
は、ここまで脚が残っていたことを示しますが、このまま調子に乗って飛ばすと、このあと脚オワになることも予想されます(どこまで保つか分かりません)。
脚オワを考える
第1回トライの時、脚はいつ終わっていたのか気になります。
Stryd の、脚バネ残量を計測する機能で見てみました。
Power Centerで確認でき、Leg Spring Stiffness という指標で、単位は kN/m となっています。
スタート時の反発力を基準とし、水色の補助線を入れました。
グラフは、上に行くほど脚バネ(着地筋)が元気に弾むことを示し、ゼロは歩き、または停止を示します(はずみがないため)。
基本的に、下りのセクションは、登りよりもバネが強くでるのですが、第1回の4月は、だんだんとバネが低下していきました(水色線の下に入っていく)。
5kmも経たないうちにバネ低下が見られ、5kmの金蔵連峠を過ぎたときには、すでに脚が潰れ始めています。
その後、止まって休んだ(ピンクの線が 凵となる)回数も多く、無理なペースでがんばって休む、という乱れは、前述の、VI(ペース変動指数)の悪化とも一致します。
スタートの5kmは元気よく走ったつもりでしたが、実はオーバーペースで、脚を潰すような登り方だったようです。
一方、第2回め・5月9日をみると、スタート時の反発力が、最後までサポートされていることがわかるでしょうか。
こちらは最後まで脚が売り切れていないことが分かります。
ランニングFTP(rFTPw)の結果
この期間の測定は、3回ありました。
日付 | rFTPw(W) | rFTPa(min/km) |
---|---|---|
3月24日 | 207W | 4'24 |
4月21日 | 207W | 4'12 |
5月12日 | 212W | 4'05 |
2回めは、パワーは上がらなかったものの、FTPでの速度が上がりました(1ワットあたりの速度が上昇→ランニング効率のUP)。
3回めは、パワー@FT・ペース@FTともに、わずかですが、向上しています。
期間中、インターバルなどのスピード練習はしていません。
FTP測定からは、パワーのわずかな上昇と、ランニング効率の向上がみられたと言えそうです。
1ヶ月のサマリー
1ヶ月ではありますが、ロング走中心のトレーニングプランには、
残念ながら目覚ましいパワーの進歩は見られなかった
持久力が上がった
ランニング効率が向上した
という効果がありそうです。Stryd Power Center で確認してみると、
懸念だった、Muscle Endurance(筋持久力)が大幅に改善していました。
また、ペース変動を抑えるというテクニックは後半の持久力に影響することが、数値の上で検証できることがわかったのも、収穫のひとつとなりました。
FTPも向上しており、予定していた練習計画には、期待した成果があったと言えそうです。
Act(改善点)
今後の課題
トレーニング量を管理するメリットはある
👉ただしこの技術は発展途上で、勉強の継続が必要トレランで使う場合には、登りと下りでのスコアは同列に比較できない
👉トレーニング量の管理は、特異性も考慮する必要がある実用的な速度域の、パワーと持久力の強化
👉よく使う領域は継続してトレーニングする必要があるロング走だけではパワーは頭打ちになる
👉練習量を、ランニング効率の追求とパワー向上、どのように配分するか?を検討この距離で違いが現れる強度ではなかった
👉ドロップオフ(ヘタれるポイント)を見るには、もっと長い距離が必要練習計画を距離で決めたため、予定時間に届かず、TSSが未達になった日が多かった(結果としてTSS不足)
👉トレーニングスコアは時間と強度の関数。時間で管理する必要性テクニックも大きく影響する
👉テクニックの変化はどのように数値に表れるか?の検証とスキルアップ手法の検討都合のよい数字に目を奪われやすい
👉数字に振り回されすぎず、シンプルにRPEも大切にする
課題山積ですね、、、今シーズン後半の練習計画に活かします。
まとめ
いざレースで不安になったとき、「いままでやってきた練習には効果があったのだ」と、確信できることほど、自信につながることは無いでしょう。
ランニングパワーメーターは、精神状態に影響をうけない、客観的な数字を教えてくれます。
ただ、はじめのうちはデータの洪水に圧倒されますし、PDCAサイクルを回し続けなければなりません。
また、つらい練習を避けている現実を突きつけられますし、走る楽しみが無くなってしまうかもしれません。
なので、ちょっと誰にでもお勧めするわけにはいかないです。
ですが、『言葉でも表現しずらい感覚』が数値で表現でき、記憶のように色褪せることもなく、ふと思いついたときに過去のデータをマイニングできることは莫大な財産となり、トレーニングの方向性を検証するうえで大きなメリットがあるのは間違いありません。いまやセルフコーチング勢には実用的なガジェットのひとつです。
まだ使い始めたばかりなので、まちがった解釈があるかもしれません。
間違ってるとか、こんな使い方はどうだろう?というアドバイスは、どんどんコメントいただけるとありがたいです。
情報交換して勉強しよう!
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