メチロンのトレラン日記

データオタクの損か得かで考える雑な薬剤師がトレランするブログ

海外レースは、出発前に十分な疲労を抜いたほうがいい話

最後の追い込みを行ってるとき、レースぎりぎりまで練習計画を詰め込んで、疲労は、移動中、現地に着いてから抜けばいい、と考えてたりしませんか。

ですが、出国前には疲労を完全に抜いておきたいものです。

なぜなら、スタートラインに立つまでに、普段では味わえないストレスが加わり続け、思ったほどには疲労が抜けていなかった経験があるからです。

旅慣れた人からすれば、何いってんだ、って内容ですが、去年の反省をもとに、その理由と対策を紹介しておきます。

ストレスと回復力

トレーニングとは、本番でかかるストレスを想定し、その刺激と回復を繰り返すことで、抵抗力を高める作業です。

刺激と回復はセットなのですが、いちどに受けられるストレスには上限があり、オーバーしつづけると慢性疲労になってきます。

海外レースになると、その場合のストレスは、筋疲労にとどまらず、長時間のフライト、時差ボケ、食事のちがいといった身体ストレスや、言語や習慣のちがいといった精神ストレスまで影響してきます。

つまり、十分に疲労を抜こうと思ったら、スタートラインに立つまでのストレス全体を、考えておく必要があるわけです。


飛行機の中は、標高2,000m

いちばん影響が大きいと思われるのは、国際線での移動です。

巡航している機内の気圧は、2,000m相当することが、JALのホームページに書かれています。

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関連ページ:JAL - 航空機内の環境について(JALプライオリティ・ゲストサポート)


例えばUTMBの場合だと、日本から欧州へは、最短の北回りでも、約12時間に及びます。

2,000mの高度といえば、富士山の5合目、佐藤小屋そこで1泊するのと変わらない負荷がかかるわけです。

よく知られているとおり、気圧の低い高所では回復に時間を要するため、移動中に休めば回復できるだろう、という期待通りには行くとは限りません。


現地の標高を知っておく

さらに、レースまで滞在する現地の標高も、回復に影響してきます。

例えば、シャモニーの標高は1,000mで、酸素濃度は平地の90%ぐらい。

高所トレを積んでれば問題のない高度ですが、まったく高所順化がされておらず、疲労が蓄積していると、やはり思ったようには抜けませんでした。


時差ぼけ(ジェットラグ)

日本とフランスの時差は、サマータイムで7時間あります。

日本からフランスに行くと、7時間を遅らせる(後たおしする)ことになります。

飛行機のなかで、腕時計を現地時間にあわせるのは、よく知られてます。


ところが、体内の時計はぴったりと合わせられず、現地にいってからも日本リズムのままで調子が狂いやすい、というのがあります。

アスリートのジェットラグについては、以下の記事が参考になります。

www.trainingpeaks.com


体内時計の話

わりと知られるようになってきた体内時計ですが、脳、目の奥の方にある視床下部という場所にあることが分かっており、次の3つの機能で構成されます。

  1. 周期(24時間)を維持する機能(振り子の機能)

  2. 時刻を調節する機能(時間の調節ダイヤル)

  3. 体内に時刻を知らせる機能(時計の針にあたる機能)


振り子は一定周期で増減するタンパク質の働きで、時刻のリセットは朝の太陽光を浴びることで行われ、その時刻の伝達はメラトニンというホルモンによって全身に行われます。

ところが、朝の太陽光を浴びても、1回では完全にはリセットしきれず、現地の昼夜に慣れるのに、ある程度の時間とストレスがかかります。

個人的な体感ですが、脳や意識は、時差の変化にすぐ慣れます。ですが、体温リズムはすぐには同調しません。

内臓の動き、たとえば胃腸が現地タイムに慣れるのには、もう少し時間がかかりました。具体的には、食欲とか、排便のタイミングです。

とくに胃腸トラブルを起こしやすい方は、日本を出発する数日まえから、できる範囲で食事時間などを現地に近づける工夫をしたほうが良さそうです。

ジェットラグへの対応は、航空会社のホームページなどでも紹介されています。

https://www.lufthansa.com/online/portal/lh/jp/informationservice/travelpreparation?nodeid=1885220991&l=jawww.lufthansa.com


太陽を基準にすると『9時間』の修正が必要

悩ましいのは、時計の時差は7時間なのですが、日の出の時刻がちがう、という点です。


2018年9月1日を表にしてみましょう。


日の出 日の入
東京 05:13 18:09
パリ 07:06 20:34


このように、今の時期の日本では、朝5時ぐらいになるとだいぶ明るいと思いますが、フランスでは7時頃になって、ようやく同じぐらいということです。

日の長さはそんなに変わらないのですが、日の出を基準にすると、さらに2時間遅れるわけです。


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つまり、時差ボケ解消に必要な、体内時計のリセットを行ってくれる太陽を基準に考えた場合、腕時計の時差を7時間修正するだけでは不十分で、日の出時刻が遅くなるぶんの2時間も加えて、合計9時間の体内時計を遅らせる必要があるわけです。

例えば、夜9時に寝て、5時に起きてるぼくは、フランスでは23時に寝て、7時に起きると、日本にいたときの太陽のリズムと一致することになります。


すると、日本からシャモニーに移動する日は、1日が9時間長くなり、33時間。

睡眠パターンは遅らせる方が簡単ですから、西行きの飛行機の中では寝ないほうが望ましいため、その日だけ、昼の長さが13時間⇨22時間に長くなります。

これは、レース前に1回、徹夜をしてるようなものですから、十分に疲労が抜けていないと、レース当日に持ち越すことになりかねません。


メラトニンを使う方法もある

ただ、事前に現地時間に合わせておく、といっても、睡眠時間をずらすのは、1日に1時間もずらせれば上出来なぐらい、難しいことです。

そこで、体内時計の針に該当する「メラトニン」を服用することでも、睡眠パターンをずらす方法があります。

時差ぼけの予防および治療のためのメラトニン | Cochrane


有効性があることはわかっていますが、ただ寝る前に飲めばいい、という単純なものではありません。

具体的には、寝つけたタイミングよりも数時間前に服用すると早寝早起き型に、朝に目覚めた直後に服用すると遅寝遅起き型にシフトできます。

うまく決まるとフィットするのが早いのですが、手探りでのぶっつけ本番はリスク高いです。

使うのであれば、Jet Lag Rooster のような、計算アプリを利用してください(メラトニン使用オプションをチェック)。

www.jetlagrooster.com


ただ、ウルトラトレイルだと昼夜も関係なくなるので、直前入りの日程であれば、ジェットラグ補正しないほうが、高パフォーマンスを維持できる気がしています。


気温差

下手をすると40℃ちかくなる、最近の日本の気温。

一方、滞在の拠点となるシャモニーの気温は、最高でも20℃前半、朝の最低気温は10℃を下回ります。

この急激な気温差もストレスのひとつで、疲労の回復を遅らせがちです。

長袖やダウンを持っていき、気温差に慣れるまでは、体を冷やしすぎないようにするのが懸命です。

シャモニーの気温は、以下のサイトで確認できます(標高1,000mです)

www.chamonix.com


スパやジャグジーを利用する

身体が冷えてくると、湯船にゆっくり浸かりたいと思うのですが、多くのホテル・アパートにはシャワーしかありません。

その場合、スパやジャグジーの外来を受け付けているホテルや施設もあるので、温まるために活用するのもひとつの方法です。


言語や習慣の違い

はじめて会ったときの挨拶や自己紹介、頼みたいことや確認をおこなうときの会話。

食事のマナーは? チップはどれだけ払えばいいの? シャワーのお湯がでなかったら?

こういうことは、事前に調べておくとストレスが減らせます。

最悪は、グーグル翻訳で筆談にする覚悟を決めとくと少しは気が楽です。


まとめ:トレーニングスコア(TSS)で考える

PMCでトレーニング管理している人なら、それぞれの疲労を、主観強度で考えると把握しやすいです。

たとえば、『16時間の国際線フライト移動は、200TSSぐらいあるなあ』 といった感じですね。

同じフライトでも、旅慣れた人(飛行機トレーニングを積んでる人)ならTSSは低めでしょうし、はじめての人なら高めでしょう。

ぼくの場合、去年はじめてシャモニーに行ったのですが、到着するまでのストレスは、TSSにして200以上あったように感じるので、無視できないです。

そこを踏まえて、レース当日のTSBが +15~+25 ぐらいになるよう、運動以外のストレスも考慮したトータルの疲労抜きを、日本にいる間に行っとくのが無難だと感じます。