Suunto から、Spartan Ultra の後継機種となる、Suunto 9 が発表されました。
Sony製チップの採用により、GNSS(GPS)精度が大幅に向上し、バッテリー持続も長くなり、光学式HRを内蔵したのが大きな改良点となっています。
機能の追加を図った Garmin に対し、「精度」「バッテリー」の向上という、GPSウォッチに求められる、正当な進化を選んだ SUUNTO。
『Fenix 5 Plus』 と 『Suunto 9』
どちらを購入するべきか、迷ってる方も多いかと思うので、このエントリーでは、気になる Suunto 9 の精度、バッテリー、使用感を、ウルトラ/トライアスロン領域で爆発的ヒットとなった、Fenix 5 最軽量モデルである、Garmin ForeAthlete 935と比較レポートする予定です。
価格やスペック
ノーマル:76,000~(前月比:↘)
Spartan から 何が変わったのか
これまで、アンビット や スパルタン を使ってきたユーザーは、『買い換える価値はあるのだろうか』が、気になっていると思います。
特にスパルタンウルトラは、バッテリー持続が短めだったので、Ambit 3 Peak から乗り換えるのをためらった方も多いのではないでしょうか。
このエントリーでは、前モデルのスパルタンや、ライバル機とのちがいにフォーカスし、基本スペックはメーカーサイトを御覧ください(→こちら)。
今回の Suunto 9 は、Spartan の持つ機能はそのままに、要望に応えるかたちで光学式HRの搭載、バッテリー持続の延長と、長時間モードでの精度向上が図られました。
GNSS(GPS)チップの変更
スントは長らく、Ambit 2~3peak と、精度とバッテリー持続のバランスが取れた、SiRF社の SIRFstarIV というGNSSチップを採用してきており、その後の Spartan Ultra では、同 SiRFstar V の採用、つづいて発売された小型モデルの Spartan Trainer では、初の MediaTek チップが採用されました。
そして今回もGNSSモジュール変更が行われており、SONY製が初採用。それも、最新型の低消費チップである、CXD5603 と言われています。
GNSS電波だけでなく、地磁気センサー・加速度センサーの情報と機械学習を組み合わせ、省電力を可能にしたSONYの新チップは、ポラール・ガーミンにも採用されています。
この技術について興味がある方は、次の記事を御覧ください。
「みちびき」にも対応
なお、ファームウェア 2.5.18以降で、みちびき補完信号(QZSS)に対応しました。
ファームウェアをアップデートするだけで自動的に対応され、特別な設定項目はありません。
みちびき補完信号は、GPS互換となっており、時計からは天頂付近に GPS衛星が増えたように認識できるためです。
GNSSに依存しすぎない新技術~Fused Track~
その SONY の「センサーフュージョン」は、Suunto 9 Baro において、「Fused Track」という呼称で実装されています。
これにより、バッテリーの保ちが大幅に向上し、Garmin Fenix 5 / ForeAthlete 935、Epson MZ-500などのライバル機に劣っていた、連続稼働時間が大きく改善されました。
最高のパフォーマンスモードで25時間、ウルトラモードでは最大120時間のバッテリー駆動時間と言われています。
GNSS精度の比較については、記事後半に掲載しています(→こちら)
バッテリ向上の新技術~インテリジェントバッテリー~
Spartan でも、バッテリーを節約する設定にすることは可能でした。 しかし、スポーツモードごとに設定しなければならない上、アクティビティ中に変更する際には、設定メニューを呼び出さなければならず、多少の不便を感じていた方も多いと思います。
今回の Suunto 9 では、スポーツモードからバッテリー管理を独立させることによって、どのスポーツモードでもバッテリを一元的に管理できるようになりました。
3つのバッテリーモード
設定できるバッテリーモードは、パフォーマンス、エンデュランス、ウルトラの3パターンで、GNSS(GPS)の受信レートを落としたり、不要な機能を制限するごとに、長時間化するようになっています。
それぞれの持続時間は以下の通り:
モード | Perfomance | Endurance | Ultra |
---|---|---|---|
最大時間 | 25時間 | 50時間 | 120時間 |
GNSS | Best | Good | OK |
リストHR | ON | ON | OFF |
表示 | 通常 | 通常+明るさ20% | 画面明るさ10% タイムアウト10秒 バイブ通知OFF Bluetooth OFF |
このうち、Perfomance, Endurance は、時計画面の表示がされますが、Ultra では画面表示もなくなるので、用途としては『GPSロガー』に近い印象です(もちろん操作を加えると表示が短時間、回復します)。
これらのモードはそれぞれカスタマイズが可能で、さらに自分でプロファイルを作ることもできます。
また、バッテリー残量が10%になると、次のモードへの切り替えを提案し、さらに尽きると、ストップウォッチ以外の機能が停止され、最悪でもアクティビティ時間だけは最後まで記録されるようになっています(120時間以上は、まず無いと思うのですが)。
スマートリマインダー
アクティビティ量から逆算して、充電のタイミングを教えてくれる機能が追加となり、充電忘れのリスクを減らしています。
光学式心拍測定の搭載
また、光学式HR(OHR,WHR)を搭載したのも大きな進歩となり、睡眠中を含む、24時間の安静時心拍の計測が可能となりました。
ただし、光学式HRの精度は、胸部ベルトに劣ります。 Suuntoによると、胸ベルトとの誤差5%以内に収まる確率が90%程度が限界としており、正確さに関しては、どこのメーカーの時計であっても、胸部ベルトが有利です。
これについては、Suuntoからも詳しい解説がされています。
このこともあり、心拍ベルトがセットされたモデルの展開がされており、胸部ベルトに切り替えると、エンデュランスモードの時間が40時間から60時間に延長されるメリットもあります。
あたらしいターゲットゾーンの追加
近年、目標のターゲットゾーンを何分間、というトレーニングがメジャーになってきました。
以前のモデルでも、心拍をターゲットはありましたが、今回は パワーとペースのターゲットが追加されました。
進む Movescount から Suunto Apps への移行
また、Web統合ソフトが、Movescount から Suunto Apps / SportsTracker へと移行が進められてます。
ただし、現バージョンの Suunto Apps / SportsTracker には連携の弱さ、という弱点があり、TrainingPeaks や Strava との連携ができません。連携重視の人は、まだ Movescount に留まっていたほうが無難です。
最終的には Movescount のサポートは終了するかもしれません。
Stryd(ランニングパワー計)の接続
外部センサーとなる Stryd を購入する必要がありますが、ランニングパワーに対応しています(Spartan や Ambit も対応しています)。
時計本体と Stryd をペアリングし、スポーツモードの中から、パワーを選びます(Movescount上で、カスタマイズ可能です)。
Stryd は、PowerPod、FootPod 両方でペアリングしておくと、パワーとケイデンスを測定することができます。
Movescount 上で、心拍やペースと同様に、パワーも表示されます。
Movescount と Stryd PowerCenter をアプリケーション連携させておけば、Stryd PowerCenter にも自動で同期されます。同様に、TrainingPeaks や TodaysPlan も可能です。
注意点として、記録されるのは、パワー、ケイデンスのみで、姿勢や脚バネなどのデータは記録されません。
それらのデータを見たい場合には、スマホ版の Stryd アプリから、OFFLINE SYNC を行えば、データを回収することができます。
ライバル機との比較
同時期に、Garmin から Fenix 5 Plus Series も発表されました。
Fenix 5 Plus と、Suunto 9 Baro を比べると、両社の姿勢が現れています。
音楽や地図、人気のヒートマップなど、モチベーションをアップさせる工夫がされており、最新ガジェットを、意欲的に搭載してくるのが ガーミンのコンセプト。
一方、ABCウォッチとしての信頼性・堅牢性を再重視しているのが スントのコンセプト。
新しい技術をどんどん試してみたい!という人はガーミンが楽しめて、あるていど確立された技術しか使わないよ、という人はスントが安心できると思います。
Fenix 5 Plus については、別記事で紹介しているので、よろしければ比較してみてください。
精度の比較
以下、Garmin ForeAthlete 935、Epson MZ-500 との比較速報です。
ログが集積しだい、更新します。
Bestモード
このモードは、現在のファームウェアでは鋭敏すぎるようで、腕振りによる振れ幅まで含まれるようです。
そのため、時計に表示される速度が速めに、距離表示が多めにでる傾向があります。
ですので、次の Endurance モードが 現時点でもっとも使い勝手が良好です。
Sunnto 9 初テスト。同時に FA935、MZ-500も測定。ともにGPS最高精度の設定。
— methylone (@methylone) 2018年6月27日
同じ道を往復してるため、Suunto9、FA935は装着腕の方向性が見られる。MZ-500は見られない。
Suunto9のふらつきは、腕振りによるもので、発売直後によく見られる現象で、Ver.upで補正される。 pic.twitter.com/DvTCqTwBst
Endurance・Ultraモード
Suutno 9、バッテリー120時間モード(Ultra)でのGPS挙動。
— methylone (@methylone) 2018年6月29日
昨日と同じコース。GPS受信は 約2分間隔のはずだけど、これだけの精度。建物や高速の谷間で撹乱されてるはずなのに。
これがSONY GNSSチップの能力なのか・・・ pic.twitter.com/NWUeFBCyLs
Endurance の GPSポーリングは約1分、Ultraは 約2分間隔とされてますが、おどろくべき高精度ではないでしょうか。
ビルの谷間を通っても乱れず、GNSS電波に依存しすぎないのもメリットかもしれません。
Enduranceモード(デフォルト設定)の実測では、カタログスペックの40時間には届かず、電波状況の悪い渓谷部で20時間以上、上空の見通しがよければ30時間以上が目安(光学式HR使用)。 バッテリーモードはカスタマイズ可能なので、スクリーンセーブをONにしたり、心拍ベルトに変更すれば、あと2割ぐらいはバッテリー持続が改善しそうです。
UTMB 2018 での 他機種との比較
UTMB2018 にて、Epson MZ-500、Garmin FA935 と比較しました。
カタログ上で40時間超となるモードで測定。気になるGPSログの精度を、Google Map にアップロードしました。
緑:FA935(UltraTrak)
橙:MZ-500(Fine)
紫:Suunto9(Endurance)
細青:オフィシャル交付GPSファイル
で表示しています。
結果、Suunto 9 は、約35時間の連続測定が可能でした。
詳しく見てみると、
32時間までは Endurance モード(手首心拍ON)が、そこからウルトラに切り替わり、35時間まで動作しています。
時計本体のバッテリー使用を抑えられる、心拍ベルトを使用したなら、Enduranceモードで、UTMBの46時間を記録しきれる感触です。
しかも、Epson MZ-500の1秒記録と大差ないログ精度。
Enduranceモードの実用性は、なかなかのものではないでしょうか。
知りたい点・気になる点 Q&A
現状の問題点
Update はこまめに行う
購入した直後は、PCに接続して、アップデートを行ってください。
GNSS(GPS)精度がでない/不安定である
Endurance/Ultraモードは、『地磁気センサー』を利用するため、コンパスのキャリブレーションが必須です。
アクティビティスタート時に、強制的にキャリブレートを強要されますが、その際、車両や大きな建物、送電線の付近を避けてください。
もし誤差があると、進路を変えたとき、進行方向のズレが生じやすくなります。
獲得高度が異常に大きく表示される
もしかして、右腕に時計をつけていませんか?
Suunto 9、Spartan は、高度の測定に必要な気圧センサーは、本体の左側に設置されています。
そのため、登りのパワーウォーク時に、腰に手をあてたり、膝押しをしたりする際に、右手首で気圧センサーの穴を塞いでしまい、異常値が表示されやすくなります。
GNSS(GPS)の高度方向は、水平に比べると桁違いに精度が悪いため、気圧センサの助けがないと、m単位の精度は得られません。
対策としては、時計1個分、ヒジ側にずらして装着するか、左の手首に装着すると起きなくなります。
光学式心拍計が安定しない
Suunto 9 は、Spartan WHR に比べれば、不安定さはかなり解消されていますが、心拍ベルトに比べると、精度が追いついていません。
この点においては、どこのメーカーの時計でも同じです。
理由としては、ベルト式は「簡易型心電計」で心臓の電気をカウントしているのに対して、手首の光学式は「血管の血流を測る」ことによるためです。つまり同じものを測っていない。
なので、寒さによる血流低下や、腕振りによる遠心力、着地衝撃による振動といった、心臓の鼓動だけではない血流の変化が、手首では観測されます。
とくに、山の下り坂に限り、規則正しい 160-200ぐらいの心拍が観測された経験はないでしょうか? そのときのケイデンス(脚の回転数)をチェックしてみてください。
ケイデンスと連動した心拍数の変化なら、着地衝撃が重積されてカウントされている可能性があります(ぼくはそうでした)。
この影響を軽減するには、できるだけ血流量が安定した部分に装着する必要があり、具体的には、時計1個分ぐらい、ヒジに近づけて装着することです。
それでもだめなら、心拍ベルトの使用を考えたほうが楽だと思いますし、ぼく自身も、心拍ベルトを使っています。
Suunto純正でなくても、BlueToothタイプであれば、どこのメーカーでも大丈夫です(個人的にはPolar H10をおすすめします)。
そもそも心拍は追従性が悪い
トレーニング効果を正しく測るためには、できるだけ正確に測りたいと思うのが心情です。
ですが、心拍は思っているほど機敏に追従してくれるわけではありません。
以下のグラフは、ジョグ→ダッシュ→ジョグ→ダッシュ というインターバルを行ったときの様子で、ペースが緑、パワーがピンク、赤が心拍です(心拍ベルト使用)。
ペースやパワーが瞬時に立ち上がるのに対し、心拍が変化し出すのは10秒後で、しっかり上がるのに1分ぐらい、その後、一定ペースを維持していても、乳酸が増えるに従って、心拍は上がり続けるのが分かります。つまり心拍が一定に達するのにはとても時間がかかる。
そのため、トレーニング効果の指標としては、より優れたペースやパワーといった指標の登場により、心拍の優位性はだいぶ薄れてきています。
今でも心拍測定が向いているのは、一定のペースで走りつづけるロング走、高所登山のストレス測定、安静時の体調変化のチェックといった、急激な変化を伴いにくいアクティビティの時です。
かりに、光学式の精度を追求したとしても、そもそも「心拍の変化が鈍い」ので、追求するメリットが多くはない、というのが現実ではないでしょうか。
この点では、心拍ベルトも光学式も大差ないです。
だけど、正確に測りたいというのであれば、迷わずベルトをおすすめします。
BlueToothタイプであれば、どこのメーカーでも大丈夫ですが、スマホのHRV測定アプリにも流用できるので、個人的にはPolar H10をおすすめします。
個人的な感想
今回の発表について、正直なところ、Spartan ユーザーとしては、置いていかれたような気持ちが残ります。
毎月のようにプロセッサが発表され、小型化・省電力化が急速に進められる時代なので、仕方のない部分もあります。
Spartan シリーズのアップデートは継続されるので、既存ユーザーは様子をみるのも悪くないかもしれません。
個人的には、Suunto 9 は魅力的に見えていますが、本当に言われているような精度と時間の両立ができているのか、外部センサーとの相性はどうなのか、と気になっています。
また、カラー液晶やタッチパネルは、アクティビティ中は制限されるのですから、Ambit や Trainer のような白黒5ボタンでもよかったのではないか、と感じます。
このあたりの使用感や、他メーカーとの比較は、発売後のファームアップデートを待ってから行う予定です。
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