【UTMB】セルフメディケーションのリスク【2017年】
ロキソニンは痛みによく効くため、マラソンやトレイルランでもよく使われているように感じます。いいのかな?と思いつつも漠然と使い続けてる人も多いかもしれません。
普通に使うのであれば安全性が高いこの薬も、特定の条件が積み重なることで、副作用の危険性が段階的に高まることをご存知でしょうか。
少々長くなりますが、セルフメディケーションのくすりをどう考えているかについて、世界最大のトレイルレースのひとつである、UTMBの医療安全マネージャーのアドバイスをご紹介します。
原文はこちらです。 utmbmontblanc.com
留意事項
この記事は、一般的な治療行為についてではなく、トレイルランニングという特殊な環境下でのリスクについて紹介するものです。日常的な使用法については、主治医および薬剤師にご相談ください。
特定の商品名を示すことは当該企業に経済上の不利益を与える可能性がありますが、名称が一般化していること、ユーザーもメーカーも健康被害が発生することは望まないであろうことから、検索エンジン対策として、記事中に商品名を含むことにしました。
できるだけ専門用語を減らして概約してありますが、NSAIDs(エヌセイズ)という単語は覚えてください。病院や薬局でも通じます。
市販されている鎮痛薬について、アセトアミノフェン以外は、すべてNSAIDsと疑って構いません。
アセトアミノフェンを含んでいても、NSAIDsを含んだ製品はアウトとなります(例:ACE処方)。
NSAIDs(抗炎症薬) | NSAIDsではない |
---|---|
アスピリン (バファリンA・ケロリンチュアブル) イブプロフェン (イブ・リングルアイビー) エテンザミド (ノーシン・新セデス・ナロン) ロキソプロフェン (ロキソニン) |
アセトアミノフェン (タイレノールA) |
ここから、概約となります。
セルフメディケーションに関連するリスク
パトリック・バセット医師へのインタビュー
UTMBの医療体制は、救急支援を専門とするフランスのDokever社が行っています。 パトリック・バセット医師は、同社の医療ディレクターです。
ここでは、バセット氏が、過剰な自己治療のリスクについて説明します。
トレイルランニングシーンにおける、セルフメディケーションの状況を教えてください。
セルフメディケーション薬は、処方箋なしで手に入る薬ですが、不適切に使用されると危険です。
UTMBランナーでの調査結果では、セルフメディケーションのほとんどが、骨・関節の痛みと、胃腸トラブルに対するものでした。
関連している医薬品は、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs・エヌセイズ)と、下痢止め・吐き気どめです。
これらを服用することのリスクはなんですか?
長時間におよぶエンデュランススポーツにおいて、抗炎症薬(NSAIDs)は、腎臓に毒性を示すことがあります。また、重度の腎機能障害に関連する、横紋筋融解症(筋肉の破壊を伴う症状)を引き起こします。
特に、横紋筋融解症 + 脱水症状 + 酸素の供給不足(高強度運動や高所登山)+ NSAIDs + 低血圧 の5つが重なると、急性腎不全がとても起こりやすくなることが分かりました。
下痢止め・吐き気止めを使って、おなかの動きを止めてしまうとき、細菌感染がある場合には、敗血症性ショックを起こしてしまうことがあります。
市販薬であろうと処方せん薬であろうと、痛みをごまかすための薬を服用することは、病気やケガを悪化させたり、回復を遅らせる可能性があることを、覚えておく必要があります。長期的にはパフォーマンスにも影響するでしょう。
では、どうすればいいのでしょうか。
なによりも、痛みの兆候に気をつけるべきです。必要に応じてトレーニング量を減らす、中止する、レースを棄権するよう、習慣づけてください。
セルフメディケーション薬を使用するときには、決められた量を守ってください。
処方せん不要で手に入りやすいということは、安全であることを意味しません。
セルフメディケーション問題への取り組みは?
レース中、わたしたちが治療したランナーについては、使用薬の聞き取りを行っており、他の情報とあわせて治療とアドバイスを行っています。
またITネットワークを利用して、各エイドステーションの救護班と情報共有を行っているため、どこでランナーが止まっても、適切なサポートをすることができます(もちろん医療情報保護は行っていますよ)。
UTMB以外においても、アスリートの健康をまもるための活動を、各主催者と協力して広げていきたいと考えています。
くすりの自己使用
2010年には、セルフメディケーションに関する、メラニー・アルノー博士の薬学研究に協力しました。
- アセトアミノフェン(国際名:パラセタモール)使用者が12~13%
- ホメオパシーは、レース前の使用が12%、レース中に9%
- 抗炎症薬(NSAIDs)が、レース前の使用が10%以上、レース中に12%以上
さらにアスピリンは、レース以前の7%のランナー、レース中の4%のランナーが使用しており、コルチコステロイドも0.4%のランナーに使用されていることがわかりました。
胃腸トラブルに用いる薬剤の使用も、問題ないとは言えません。
総合的には、アセトアミノフェンがレースでいちばん多く使われている鎮痛薬で、これは副作用に比べ、利益が大きいため、理にかなっています。
しかし、アスピリンを含む抗炎症薬(NSAIDs)の使用には注意が必要です。鎮痛作用は高いと思われていますが、副作用が多いからです。
最後に、ステロイドは禁止薬物ですが、緊急時には使用されうる薬剤です。その治療を受けることはレースの終了を意味します。
サポートスタッフからのアドバイス:
基本的に、痛みは異常のサインとして尊重しなければならない。抗炎症性の鎮痛薬(NSAIDs)は、腎不全を引き起こす可能性がある横紋筋融解症(筋肉の破壊)といった、深刻な問題を隠します。
痛みがあるときは、アセトアミノフェンを優先してください。ただし用法と用量を守ってください。
抗炎症性の鎮痛薬(NSAIDs)の使用は、可能な限り避けることが望ましい。レース中の腎毒性や横紋筋融解症だけでなく、慢性的に使い続けることは、筋骨格系に悪影響を及ぼす。
アスピリンも抗炎症薬(NSAIDs)に属するため、推奨されない。横紋筋融解症の可能性を高めるだけでなく、胃腸トラブルのリスクを増やし、転倒やケガのさいに出血しやすくなる。絶対に複数の鎮痛薬を同時服用しないでください。
コルチコイド(ステロイド)は、競技スポーツにおいては禁止薬物です。
レース中の胃腸トラブルについては、トレーニングの積み重ねと食事の工夫で予防される。
下痢は、まずケイ酸アルミニウムのような吸着剤を使用してみて、だめなら強力なブロッカーを使用する。
吐き気止めはドンペリドンが好ましい。
逆流防止は食べ物選びが大切だが、必要に応じて胃酸分泌抑制薬(H2ブロッカ等)は使うことができる。あと、ホメオパシーは、身体の様々な症状に使うことができて、禁止薬物ではありません。
重要事項
もし、UTMBの医療班に相談する場合には、使用している薬の名前と量を伝えることを忘れないでください。 それは不可欠な情報であり、それによって最善をつくすことができるからです。
ここまで、概約となります。
まとめ
医薬品は、安静時での安全性は確認されていても、スポーツ競技、とりわけエンデュランススポーツで使われることは想定されていません。
すくなくとも自分が使用するツールについては性質をよく理解しておきましょう。
また、UTMBはトレイルランニングシーンにおける、ランナーの健康について医療体制を充実させるとともに、医学研究を行っています。
この医療連携システムが、今後のITRAのシステムにも実装され、トレイルランニングにおける安全確保に役立つことが期待されています。
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