痛みに効きやすいロキソニンは、マラソンやトレイルランでもよく話題になるお薬です。いいのかな?と思いつつも漠然と使い続けてる人も多いかもしれません。
普通に使うのであれば安全性が高いのですが、特定の条件が積み重なることで、副作用の危険性が段階的に高まることが分かってきました。
少々長いのですが、このエントリーでは、UTMB と Racing the Planet、それぞれの医療マネージャーが懸念する、鎮痛薬の現状をご紹介します。
留意事項
この記事は、一般的な治療行為についてではなく、ウルトラマラソンやトレイルランといった、エンデュランススポーツにおけるリスクについて紹介するものです。日常的な使用法については、主治医および薬剤師にご相談ください。
特定の商品名を示すことは当該企業に経済上の不利益を与える可能性がありますが、名称が一般化していること、ユーザーもメーカーも健康被害が発生することは望まないであろうことから、検索エンジン対策として、記事中に商品名を含むことにしました。
できるだけ専門用語を減らしていますが、NSAIDs(エヌセイズ)という単語は覚えてください。
市販されている鎮痛薬について、アセトアミノフェン以外は、すべてNSAIDsと疑って構いません。
アセトアミノフェンを含んでいても、NSAIDsを含んだ製品はアウトとなります(例:ACE処方)。
NSAIDs(抗炎症薬) | NSAIDsではない |
---|---|
アスピリン (バファリンA・ケロリンチュアブル) イブプロフェン (イブ・リングルアイビー) エテンザミド (ノーシン・新セデス・ナロン) ロキソプロフェン (ロキソニン) |
アセトアミノフェン (タイレノールA) |
痛み止めを使って競技することの是非は、倫理観、競技規則、安全性、に分けられます。 NSAIDsは、ドーピング禁止薬物ではありませんから、競技規則においては問題ありません。ドーピング規制は倫理の最低限をクリアーしていますから、痛みを止めて走ることの是非は、個人の価値観に委ねられるので割愛します。
そこで、このエントリは、最後の「安全性」をテーマにしています。
UTMBにおけるNSAIDsの問題
世界最大規模のトレイルレースに数えられるUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)では、フランスのDOKEVERという救急医療支援の専門会社が医療体制をサポートしています。そのディレクターのアドバイスがUTMBの公式ページにあるのですが、日本語化されていないため、概訳してみました。
UTMBのランナーを対象とした調査では、NSAIDsの使用も多く見られるとのことです。 ウルトラトレイルでの筋肉のダメージ、高所による酸素不足、脱水症状の進行、血圧低下が起きているところに、NSAIDsが加わるという5条件が達成されると、急性腎不全がとても起きやすくなる、と懸念しています。
痛みがでたら運動強度を落としたり、リタイアすることが大切だが、NSAIDsを使うぐらいならアセトアミノフェンを優先してほしいとのアドバイスがあります。 また、痛み止めの長期使用は、その後のパフォーマンスにも影響することを指摘しています。
Racing the Planet でのイブプロフェン研究
アタカマ、ゴビ、サハラといった砂漠を舞台に、7日間で250km、自給自足で踏破する Racing the Planet 。この大会の医療マネージャーを務める、スタンフォード大学のリップマン准教授が、NSAIDsのひとつであるイブプロフェンについて行った研究の概要をご紹介します。
こちらの研究では、筋肉のダメージを伴ったり、脱水症状を起こしやすい状況でのウルトラマラソンでは、イブプロフェンの有無にかかわらず腎障害がみられました。 そして、服用した場合には、さらに腎障害が起きやすくなることが示されています(日本での用量よりもかなり多めです)。
ほとんどの場合、急性腎障害はレース後1〜2日のうちに回復するものの、場合によっては入院するケースもある、と述べられています。
こちらでのアドバイスも、イブプロフェンを避けてアセトアミノフェンとアイシングの方がよいとしています。
まとめ
ロキソニンもイブもナロンもNSAIDsに分類されます。
共通している指摘は、
一般的な使い方であれば問題はない
どちらもかなり過酷な競技
そもそもウルトラランナーは急性の腎障害を起こしやすい状況にある
筋肉のダメージ+脱水症状+酸素の供給不足+血液循環の低下(低血圧)に NSAIDsが加わる(5条件)と、もっとも起こりやすくなる
一般用医薬品は、エンデュランススポーツで使用されることを想定していない
トレイルランやウルトラマラソンは、すぐに十分な医療体制が受けられるとは限らない
痛みを緩和するなら、NSAIDsではなくアセトアミノフェンを選ぶべき
となります。これらの指摘はウルトラマラソンやトレイルランにかぎらず、トライアスロンやバイク競技にもいえることです。
ジョギングていどであれば、心配しすぎることはなさそうですが、日常的に使用し続けたり、レース直後の1〜2日間の使用については、よく考えたほうがよさそうです。
市販薬は、スポーツで使われる設計にはなっていません。
あと、アセトアミノフェンの市販薬でも、エテンザミド等のNSAIDsが配合されてると意味がありませんので、よく確認するようにしてください。
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