Matt Fitzgerald 氏のトレーニング法で、LTを超える高強度は全体の20%までとし、残りの80%は会話ができるペースで行う、というものです。
田中教授の、『にこにこペース』やマフェトンペースに考え方が近く、ダニエルズ、リディアード式でも、ほぼ同じ比率なので、標準的な練習法と言えます。
ゾーン分類
ゾーン分類は一般的な1(リカバリー)~5(VO2)の5段階に分けますが、Zone 3 の前後は、特殊なゾーンとして区別しているのが特徴です。
Zone 1 | リカバリー |
Zone 2 | 体調次第の広いゾーン 過ごす時間が長い |
Zone X | レースペース 疲労が貯まりやすく控えめに |
Zone 3 | 乳酸閾値~ちょっと手前、60分までの持続 |
Zone Y | Xほど有害ではない 中途半端なので避ける |
Zone 4 | 3~5分の長めインターバル このゾーンは正確に体得する必要 |
Zone 5 | 60~90秒のトップスピードインターバル |
見慣れない Zone XとYの意味は、
にこにこペースがビルドアップして乳酸閾値ペースになってしまい、必要以上に疲労を貯めてしまうことを防ぐため(Zone X)
閾値走にしては速すぎるがインターバルにしては遅すぎる、ふたつのゾーンにまたがった中途半端な刺激を避けるため(Zone Y)
という目的で、ゾーン2~3、ゾーン3~4の境界を、分かりやすく命名したものです。
ゾーンは、FTPw(機能閾値パワー)、FTPa(機能閾値ペース)から求められ、ゾーン3~YがFTPに相当する帯域になります。
FTPの測定は、以下の方法で行ってOKです(ちなみに Running with Power の Jim Vance 氏は Matt Fitzgerald氏の同僚です)。
FTPを求めることができたら、以下の公式ページでゾーンを計算することができます。
80/20 Zone Calculator | Matt Fitzgerald
この値を、管理ソフト(TrainingPeaks、TodaysPlan等)に入力したり、GPSウォッチに設定して利用できます。
基本的なパターン
練習時間のうち、全体の80%超が低強度、中+高強度は20%までの比率が重要で、基礎期・強化期・レース特化期を通じて、ほぼ同じ。
1週間の構成は、イージーとハードが交互にくるように組み立てられ、週2のインターバルと週末のロング走が、イージーで区切られる。
年齢・トレーニング経験に応じて、3週サイクル・4週サイクルを選び、例えば4週1サイクルなら、50km→55km→60km→40km(レスト週)のように漸増→レストを繰り返します。
レースから遠い時期に、レースでは使わないゾーン(ゾーン4や5)を強化し、直前に近づくにつれ、レースペースでの練習(ゾーンXやゾーン3)に特化していくスタイルは、Run with Power(Jim Vance)、Training Essentials for Ultrarunning(Jason Koop)と同様のアプローチなので、馴染みのある人には分かりやすいかもしれません。
ランナーのレベルに応じて、初心者向け(Level 1)、中級者向け(Level 2)、経験者向け(Level 3)があります。
レベル1は、入門者~フルマラソン完走レベル、レベル2はサブ4~サブ3目標。
レベル3は、インターバルや坂道レペティションを含み、サブ3あたりのランナーがターゲットかと思います。
以下、組み合わせのパーツとなる練習パターンです。
低強度
Foundation Runs:
週の大半を占める、Zone 2(にこにこペース)での時間走。
Long Runs:
Foundation Run が時間走であるのに対し、Long Run は、Zone 2 での距離走。週末に行われる。
Recovery Runs:
Zone 1 での疲労抜き 時間走。Foundation Run に含まれることもある。
中強度
Fast Finish Runs:
いわゆるビルドアップ走。Zone 1→2→3と時間毎にペースアップして、最後が速くなるよう終わる。
Tempo Runs:
Zone 1→2→3→2→1のビルドアップ~クールダウンで、レース特化期に、Zone 3(閾値)を刺激するための練習。
Cruise Interval Runs:
Tempo Runに似てるが、Zone 3の部分を、4✕ (15分 Zone 3 & 3分 Zone 1)のように、レストを挟むパターン。
レストが挟まる分だけ、トータルでZone 3に滞在する時間を長くできる。
Long Runs with Speed Play:
Zone 2のロング走に、2→3→2→3→2・・・のように、インターバルを加える練習。
基礎強化ができており、レースでの疲労耐性を獲得するために、レースが近づいたタイミングで行われる。Long Run なので 距離走。
Long Runs with Fast Finish:
ビルドアップ走(Fast Finish Run)の距離走バージョン。
基礎強化ができており、レースでの距離耐性を獲得するために、レースが近づいたタイミングで行われる。Long Run なので 距離走。
高強度
Speed Play Runs:
Foundation Run と Interval Run の組み合わせ。
基礎期に行われる。
Short Interval Runs:
60~90秒の Zone 5インターバルで、Zone 1のレストを挟む。
有酸素能力、疲労耐性、ランニングエコノミーの向上を狙ったもの。
Long Interval Runs:
3~5分の Zone 4インターバルで、Zone 1のレストを挟む。
高強度での疲労耐性を得る目的。
Hill Repetition Runs:
上り坂で行う Zone 5インターバル。相対的に軽い脚ダメージで、インターバルのメリットが得られる。
基礎期が終わり、ピーキングに向けた時期に用いる。
Mixed Interval Runs:
Zone 3、4、5 を織り交ぜたインターバル走。
それぞれのゾーンの土台が確立され、レース特化期に用いられる。
より詳しくは、公式サイトにも解説があります。
Understanding Your 80/20 Run Plan | 8020 Endurance
Intensity Guidelines for 80/20 Running | 8020 Endurance
実際の組み立て
典型的な週では、こんな感じの組み立てになります。
Faundation Run で、週2回のインターバルおよび、週末のロング走が区切られているのが分かると思います。
RF6 とかの 6 という数字は、大きいほど時間が長いことを意味するため、前述のパーツは何十パターンもあることになります。
時期に応じて、さまざまな刺激や長さが組み合わされるため、体に慣れが生じにくく、飽きません。
ポイント練習がいつも苦しいってことですが、、、
練習による負荷ですが、PMCで評価した場合、CTLがガタガタせず、滑らかに上昇するため、TSBはハード週で0~+5、レスト週で10前後に収まります。
そのため、テーパリング期に入っても、CTLが急減しにくい構成になっています(ピークから1割減に収まる)。
レース当日ですが、Zone 2high ~ Zone X が、レースペースになります。
つまり、練習に成果がでていて、キロ 4’15 が Zone X に位置するようになれば、サブスリー達成が見えてくることになります。
Training Peaks 版
この練習プラン、上記のようなメリットがあるのですが、パーツがとても多く、滑らかに効果を蓄積していく計画を自分でつくるのは、かなり大変です。
そのため、TrainingPeaks に買い切りプランがあります。
Level 1、2、3があり、それぞれ ペース基準、心拍基準、パワー基準が用意されてます。
買ってみたので、よければ参考にしてください。
参考書籍
Matt Fitzgerald氏の著作を紹介します。
まず、80/20ランニングの書籍版は、Web解説では省かれている理論や背景、具体例が詳しいです。
また、レースを控えた時期の体重コントロールと食事をテーマにした、
や、最大の身体パフォーマンスを引き出すための精神力をテーマにした、
あたりは、読み応えがあると思います。
関連記事